【「いわしろ」の取り組み】
  2、認知学習

 自閉傾向や自閉症の子供は人と関わることが苦手であるために、せっかくの知恵を人に育ててもらうことが難しくなります。1才でミニカーをずらりと等間隔に並べたりすると、親は驚きます。でも、2才になっても3才になっても同じ遊びをくり返すので、少しも遊びが広がらないことに親は気付きます。

(知恵を伸ばす、幅を広げる)
 いわしろの認知学習は、子供のもっている知恵に働きかけるものです。
 自閉症は一人ぼっちでつくりあげた知恵ですが、知恵はより高いレベルへと発達することも求めている、と私たちはとらえています。そのレベルアップを図るためには人(他者)から学ぶことが必要となります。これが認知学習を必要とする理由です。
 いわしろの認知学習では、いろいろな分野の課題を取り組んでいきます。その経過の中で、幅のある認知の能力を育むことを目指していきます。

 認知学習のポイントの一つは、子供達の指導者を見つめる「目」です。普段は多動であったり、視線を合せようとしない子供が、認知学習の時には落ち着いて指導者をよく見つめる場面があります。
 認知学習に取り組んでいく中で、子供は知的好奇心が満足したり、新しいことを学んだりした時、子供の表情が輝く経験をしてきました。

(指示受容)
 認知学習の指導は指示受容の指導です。いわしろでは指示受容の指導がいろいろな場面で展開します。
 例えば、指導者がホワイトボードに大小さまざまな○を書きながら「これはまるです。」と教えます。ここで子供は○は「まる」であることを学んでいきます。この場合、「○はまるです。」の教えは、指示に相当し、○は「まる」であることを学ぶのは指示受容に相当します。
 さて、子供が○は「まる」であることを学ぶことを通して何が起こるかを考えると、「これはまるです。」という指示を受け入れることで、指導者という人(他者)を受け入れるということが起こります。認知学習は本来知恵の発達を図るためのものですが、指示受容の指導から人(他者)を受け入れる心を育むことも起こります。
 したがって、認知学習のたびに人(他者)を受け入れるトレーニングが展開されることとなります。
 指示受容に取り組む中で、他者を受け入れる幅が徐々に広がってくると、やがて指導者以外の人も受け入れる場面が少しずつ見られるようになってきます。そして、友達と遊んだり保育園や幼稚園や小学校等での集団生活への参加の土台を築いていくことになります。

(愛着、きずなを育てる)
 指示受容の指導においては、指導者は子供が指示を受け入れた手応えを感じることがポイントです。そのために1対1でしっかりと向き合うことになります。
 認知学習で知的好奇心がみたされると、子供は知的な刺激を与えてくれる指導者を受け入れるようになっていきます。これは認知学習によって指導者を心の中に受け入れるからです。
 こうした姿をみると認知学習は、指導者と子供との間に愛着、きずなを育てていくことを感じます。この愛着、きずなをもとにして対人関係の心は育っていきます。

(こだわりだけではないすごし方へ)
 認知学習によって、自分で作り上げた知恵に新しい風が吹きこまれます。すると自分でつくりあげた知恵だけに固執する場面が減っていきます。こだわり以外のすごし方をする場面が少しずつ増えていきます。
 また、認知学習によって子供は人(他者)から学ぶことを習得することで、他者から提案されるこだわりへの対応も受け入れられる場面が増えていきます。

(いっぱいほめる)
 指示受容の指導において大切なことは、ほめてまとめることです。
 自閉症の子供は人の指示を受け入れることが苦手です。ですから、認知学習や指示受容の場面では、子供のがんばりも取り組みのポイントになります。そのがんばりを認めることが大切なのです。子供ががんばっていることに思いを寄せれば、自然と「よくがんばったね。おりこうさん。」とほめたくなります。
 いわしろでは、子供を抱きしめて目を見つめながらよくがんばったことをほめます。また、指や両手で○を表現して「○だよ。」とほめたりします。
 学習課題がクリア―できた時にほめることは誰でもすることですが、たとえクリアーできなくても学ぼうとした学習態度や指導者の説明が聞けたこと等をほめます。

 子供はほめられると、どのようにうけとめるのでしょうか?
 会話が人と人の関わりを生むように、ほめることも人と人の関わりを生みます。
 ほめると子供はほめてくれた人を少しずつ受け入れるということも起こります。
 したがって、指示受容の指導では、指示を受け入れることで指導者を受け入れて、さらにほめられるとほめてくれた指導者を受け入れます。子供は指示受容の指導において指導者を2回受け入れることになります。その結果、子供と指導者のつながりがより密になります。

 ほめられるということは、子供にとって本来はうれしいことです。子供はほめられることで人との関わりを体験します。うれしい体験は子供の人を受け入れる窓口を広めます。
 認知学習の場面だけではなく、遊びの時も身辺動作の取り組みをする時もお手伝いの時もいろいろな場面でも子供の行動を認めて、いっぱいほめます。


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