3.「愛着形成」について

【1、愛着について】
 0才の時期に発達しなければならない課題として「愛着が形成されること」があります。
 赤ちゃんの心は未熟なままで生まれてきますが、大人とのかかわりを通して徐々に心が発達し、生後6〜8ヵ月頃に赤ちゃんの心に愛着が形成されます。愛着が形成されるまでに5〜6ヵ月の期間が必要です。
 愛着とは、赤ちゃんが特定の人に対して「この人は自分の欲求や感情や意思を理解してくれる、この人といれば安心だ」という認識をもち、その人が大好きになることで、特定の人に対する特別な情愛です。


〈大好き!〉
 赤ちゃんは自分が泣いたり、笑ったり、アイコンタクトをして接近・接触を求めたとき、それにこたえて最も密に相互作用をしてくれた人を特定の人として選びます
 ほとんどの赤ちゃんは、主な養育者である母親を愛着の対象者とします
 以下、愛着の対象者を「母親」と書きます。

〈母親が出て行くとおお泣き〉
 
愛着が形成されると愛着行動が強く出てきて、赤ちゃんは盛んにふれあいを求めます。
 たとえば、他の人が部屋から出て行っても平気なのに、母親が出て行くと大泣きしたり、母親に対しては他の人に見せない微笑行動をしたり、他の人がなぐさめても泣きやまない時でも、母親がなぐさめるとすぐに泣きやみホッとした表情を見せます

〈他の人では泣きやまない〉

〈お母さん、抱っこして〉
 また、母親を見ると抱っこをしてといわんばかりに、両腕をさしだして歓迎します。


【2、愛着が形成される道のり】
 新生児期から3ヵ月頃にかけてアイコンタクトが成立し、欲求の泣き、微笑行動が発達した赤ちゃんは、あやされると手足をバタバタさせたり、声を出して笑ったりして全身で遊んでもらって嬉しいという行動をします。
 これを「おはしゃぎ反応」といいます。


〈もっと遊んで!〉

 生後3〜5ヵ月頃になると赤ちゃんは、大人と遊ぶことの楽しさを覚えるので、大人が接近するとアイコンタクトをかわしながら微笑みかけてきて「遊んでちょうだい!」というサインを出します。
 大人は赤ちゃんの微笑みに魅せられて、つい抱き上げて歌を歌ったり、ゆらゆらとゆすったりします。すると赤ちゃんは「おはしゃぎ反応」をします。
 大人は赤ちゃんのおはしゃぎ反応を見ると嬉しくなり、再びあやします。ところが大人があやしを中断すると赤ちゃんは「アーアー」と叫んで、大人にもっと遊んでほしいと訴えます
 しかし、大人がすぐにあやしてくれない時は、生後1〜2ヵ月頃に身につけた「欲求の泣き」を使って、大人を引きつけようとあやしてくれるまで泣き続けます。
 そこで見かねて大人があやすと生後2〜3ヵ月頃に身につけた「微笑行動」をつかって、いつまでもそばで遊んでほしくて微笑み続けます。
 このように赤ちゃんは、おはしゃぎ遊びの中で「欲求の泣き」や「微笑行動」を上手に使い分け、ぞんぶんに大人とふれあいをしながら愛着を形成していきます
 「おはしゃぎ反応」が月齢相応にできるようになることは順調に愛着が形成されつつあることを裏付けることでとても重要な行動です。
 そして生後6〜8ヵ月頃には、赤ちゃんは今までもっとも親身になって関わってくれた特定の人を愛着の対象者として選び、その後、人見知りをはじめます


【3、人見知り】
 愛着が形成されたかどうかは、6ヵ月以降より始まる人見知り行動によって判断することができます。
 たとえば、赤ちゃんは見慣れない人に抱かれると泣き続けます。泣き続けているとき、母親が抱くとピタリと泣きやみます。
 また母親と遊んでいるとき、他の人が接近してくると、その人から目をそらしたり、母親からはなされないようにしがみついて警戒します。とくに、おびえたり、体調が悪いときは、母親にしがみついてはなれようとしません。
 こうした人見知り行動をしたとき、母親が赤ちゃんの気持ちを察して、しっかりと抱いてなぐさめると、赤ちゃんは母親のそばにいれば何があっても大丈夫、母親はいつも自分を守ってくれるという思いをますます深めていきます。
 こうして赤ちゃんにとって母親は「安心感のよりどころ」となっていきます。


【4、愛着形成のまとめ】
 愛着を形成し、人見知りが出た赤ちゃんは、母親を「安心感のよりどころ」として行動範囲を広げていきます
 すなわち、「ハイハイ」などの身体的な発達に合わせて探索行動が始まります。
 また、赤ちゃんは特定の人(主に母親)との信頼関係ができると、だんだんと他の人をも不安なく受け入れることができるようになり、いろいろな人との接近・接触を求め始めます。赤ちゃんが選んだ特定の人(主に母親)との「愛着」は、その後も日々強くなり、永続的なものとなります。
 愛着が形成されることは、赤ちゃんの心の発達が順調であることの証しです。


【5、愛着が形成されにくい赤ちゃん】
 すべての赤ちゃんが順調に愛着を形成するわけではありません。愛着が形成されにくい赤ちゃんがいます。
 こうした赤ちゃんは「アイコンタクト」の成立がしっかりとできません。 抱っこをして大人が赤ちゃんの目を見つめて語りかけた時、一瞬チラッと目を合わせますが、すぐに赤ちゃんのほうから目をそらしてしまいます。また赤ちゃんのほうから積極的に目を合わせようとしません。


〈目が合わない赤ちゃん〉

〈一人笑いをする赤ちゃん〉

〈おとなしいため、一人ですごす赤ちゃん〉

〈手をつなぎたがらない子供〉

 つぎに「欲求の泣き」においても泣き続ける赤ちゃんは、どうして泣いているかが大人がわからないため、対応に苦慮するばかりで適切な対応をしてもらえません。
 また、泣かない赤ちゃんは、赤ちゃんの欲求が大人にわからないためにどうしても大人の接近・接触が少なくなり手をかけてもらえることが少なくなります。
 さらに「微笑行動」においても人をひきつける微笑をしないで、一人笑いをする赤ちゃんは大人とのふれあいがどうしても少なくなりがちです。
 「おはしゃぎ反応」においても遊んでほしいというサインがとぼしい赤ちゃんは、おとなしくて「良い子」と思われてしまい、一人ですごすことが多くなります。
 このように「アイコンタクト」、「欲求の泣き」、「微笑行動」、「おはしゃぎ反応」において順調な発達をしない赤ちゃんは、大人との情緒的なふれあいや相互作用が十分になされないため、結果的に愛着形成が難しくなり、人見知りも出ません
 人見知りをしない赤ちゃんは「安心感のよりどころ」がないため、やがて一緒にいる大人と関係なく行動するようになります。
 たとえば、歩行ができるようになると自分勝手に好きな方向へ歩いていってしまったり、手をつないで歩くことを嫌がったり、名前を呼んでも振り向かなくなったり、外出先で迷子になっても不安感がないため親をさがしたり、泣いたりしません。
 したがって、人見知りをしないということは情緒の未発達であり、新生児期にさかのぼってアイコンタクトや抱っこ、微笑行動、おはしゃぎ遊びなどに取り組むことが大切です。

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