5.「探索行動」について

(生後11ヵ月〜1才半)

【1、探索行動について】
 生後11ヵ月頃になると身体機能が著しく発達し、ハイハイ行動からつかまり立ちとなり、直立姿勢をとることができるようになります。
 赤ちゃんはそれまでは四つ這い姿勢で下から上を見上げていましたが、直立姿勢では上から下を見下ろしたり、遠くを見つめることができるようになります。
 また、1才をすぎて二足歩行ができるようになると、急速に行動範囲が広がります。こうした視野の広がりと、行動範囲の拡大により赤ちゃんは好奇心のおもむくままにいろいろな物についての探索をはじめます
 また、この頃の赤ちゃんは「人さし指」だけを立てることができるようになり、何か興味あるものを見つけると、指さしして「アーアー」と叫びます。
 赤ちゃんの指さし行動には、見つけた物が何であるか知りたい、さわって見たいなどの好奇心の気持ちがこめられています。指さし行動を含めて、目新しいいろいろな物に興味を示してどんな物かを知ろうとする行動を探索行動といいます。

〈つかまり立ちをしながら指さし〉

【2、指さし行動による探索】
 生後11〜12ヵ月頃の赤ちゃんは、「示指分離の独立」といって、他の4指を屈曲して、示指だけを立てる「指さし行動」ができるようになります。
 直立姿勢で近くのものを注視したり、遠くのものを見つめることができるようになった赤ちゃんは、身のまわりの物や絵本などで興味のあるものを見つけた瞬間、「アー」と声を発しながら、指さしします。大人は赤ちゃんの気持ちを察して、指さした物や絵本を手にして「これは犬ワンワン、これはコップ、ゴクゴクね」などと声かけをします。
 すると赤ちゃんは絵本のページをめくって、次から次へと絵を指さししたり、身近にある物を指さしして「これは何?」とたずねるような視線を向けます。
 また、テレビの前に立ってあちこちさわっている時、スイッチを人さし指で押したらテレビが写る体験をすると、赤ちゃんはテレビのつけ方を覚えます。スイッチを押すおもしろさを覚えると、いろいろな道具のスイッチを押してみたくなり、スイッチの探索をはじめます。
 このように指さし行動は興味あるものにふれてみたい、どんな物かを知りたいという好奇心から起こるもので、目新しいものを理解しようとする意欲的な行動です。
 また、赤ちゃんは指さしすると、大人が言葉をかけてくれたり、自分の気持ちにそった行動をしてくれる体験から指さし行動はコミュニケーションをとる手段であることをおぼえます。大人のほうは指さし行動ができるようになった赤ちゃんの姿に成長を確認できる思いがします。


〈身の周りの物を「アー」と言いながら指さし〉

〈絵本の絵を指さし〉


【3、探索行動にともなう言葉かけ】
 1才をすぎ、歩行して探索をするようになると急速に行動範囲が広がります。
 赤ちゃんは好奇心のおもむくままに部屋の中を歩きまわり、次から次へと身のまわりの物や玩具を手にとったり、じっとながめたり、なめたりします。大人はそうした赤ちゃんの行動につきあって、わかりやすい言葉で話しかけたり、しつけをします

〈身のまわりの物をじっとながめたり、なめたり・・・〉
 たとえば、赤ちゃんがミニカーを手にとり、しばらくながめてから床にトントン叩きつけたりすると、大人は「これはブーブーよ、トントンしたらだめよ、ブーブーと言って走らせてごらん」などと語りかけながら車の正しい扱い方を教えます
 すると赤ちゃんは車の遊び方をおぼえ、大人の言葉を模倣して「ブーブー」と言いながら車を走らせるようになります。

〈「ブーブー」と言いながら車で遊ぶ〉
 また、走っている車を指さした時、「ブーブーだよ」と言われたり、車にのるとき「ブーブーにのろうね」と声をかけられたり、車に何回も乗ってドライブの楽しさを体験しているうちに、やがて「ブーブー」という擬声語には、「車」や「車に乗りたい」「車は楽しい」「車がきた」という意味が含まれていることを理解するようになります。
 また、自分が車に乗りたい時は、外の方を指さして「ブーブー」と言って欲求を伝えるようになります。すなわち、車の例のように、赤ちゃんの探索行動とそれにともなう大人の言葉かけは、日々いろいろな場面で展開されます
 赤ちゃんは大人から何十回、何百回と聞かされて言葉をおぼえます。赤ちゃんの旺盛な探索行動に大人が関わって、ごく自然に事物について名称や色・形・使い方などをくりかえし説明したり、事物の動きに関する言葉かけをします。

〈「ブーブー」は楽しいなあ〉

〈母親が子供におもちゃの使い方を説明中   「おほしさまはどこかな〜?」〉
 また、この時期の赤ちゃんは、「おてて、おくち、おめめ、あんよ」と言われると自分の手、口、目、足を指さしたり、幼児語(ママ、クック、バイバイ、ウンマ)や擬声語的な名詞(ワンワン、ブーブー、ニャーニャー)を言ったりします。
 さらに、言葉をかけられることによって物には名称があることを理解したり、動作や状況を表す言葉(頭テンテン、おててパチパチ、アッチ、キレイ、ウマイ)を知ったり、大人の言葉を模倣して言ったりします。
 このように探索行動は赤ちゃんの言葉の発達をはかるうえでとても大切な行動と言えます。0

〈大人の言葉かけが大事・・・〉

〈「おめめ」で自分の目を指さす〉

〈幼児語でおしゃべり〉


【4、知的好奇心による探索行動】
 1才をすぎると赤ちゃんに旺盛な知的好奇心がめばえ、目に入る全ての物に興味を持つようになり活発に探索行動をはじめます。赤ちゃんは興味を持つ物を口でなめたり、手でさわったり、投げたり、いじりまわしてどんなものかを学習していきます。
 たとえば、包装されたミニカーの箱を見つけると、さわったり、叩いたり、口でなめたりします。そこで大人が「開けてあげるよ」と言って包装紙をあけると、赤ちゃんは大人の手つきをじっと見つめています。
 そして箱の中にミニカーを見つけると、自分で取り出して興味深くいじりまわしますが、大人が手にして「ほらブーブーだよ」と言って走らせて見せると、遊び方をおぼえて「ブーブー」と言いながらミニカーとしての遊びをはじめます。
 このように大人は、赤ちゃんの探索行動につきあって、事物の名称や色の使い方など様々なことがらを教えます次回、包装された箱を見つけると、赤ちゃんは楽しませてくれる物が入っていることを期待して、開ける前から大喜びをし、その後で箱を開けて中身を見るようになります。
 赤ちゃんはひとつの物についての好奇心が自分の行動や大人からの関わりによって満たされると、他の物に興味を持つようになります。このように赤ちゃんは好奇心によって自分の世界を広げていきます


【5、探索行動はしつけのポイント】
 しつけのポイント「ほめること、叱ること」が上手にできることであると言われます。赤ちゃんに探索行動がはじまると一日のうちに何回となく大人は叱ったりほめたりする場面にでくわし、しつけが始まります。
 たとえば、テーブルの上にのっている食器類を手ではらいのけて下に落そうとしたり、熱いお茶が入っているコップに手をふれようとしたら「ダメ・メン」をしなくてはなりません。ところが、タンスの引き出しの開け方がわからなくてガタガタやっている時、大人に開け方を教えられて、次回、スムーズに引き出しが開け閉めできた時は「よくできたね」と言ってほめています。
 この時期の赤ちゃんは、ほめられると喜び、叱られるとしゅんとなります。
 ほめる時は「よくできたね」と言って、しっかり抱っこをしてほめてあげます。叱る時は真剣に叱り、赤ちゃんがしゅんとしたら、なぜ叱ったかをゆったりした気持ちでアイコンタクトをかわしながら、さとします
 赤ちゃんは探索行動をするようになるとしばしば目に余るいたずらや危険な行動をします。そのため、しばしば「メン・ダメ」と叱られます。反面いろいろなことに挑戦してできなかったことができるようになったり、また、発語を言ったり、言葉の理解ができるようになってほめられます。


〈いけないことをしたら「ダメ・メン」のしつけ〉

〈ほめられて、うれし〜〉

〈しかられて、シュン・・・〉

 こうした「ほめること、叱ること」のしつけにより、赤ちゃんは大人と強く関わりあうことになります。また、「ダメ・メン」のしつけは、赤ちゃんに他者の指示を受容する気持ちとがまんする気持ちを育てるという利点があります。
 ただし、禁止の言葉「メン・ダメ」を受容して危険な行動を中止した時は、ほめすぎたかなと思うほどほめることが大切です。
 ほめないで、一方的に「メン・ダメ」のしつけをしていると、旺盛な好奇心が希薄になり、赤ちゃんは積極的に探索行動をしなくなります。
 赤ちゃんの探索行動を応援するつもりでしつけをすることがポイントです。


〈探索行動に大人の関わりは大事:ほめる時はほめ、危険なことをした時は「メン・ダメ」〉


【6、愛着形成から見た探索行動】
 赤ちゃんの探索行動から愛着が形成されたかどうかを観察することができます
 愛着を形成した赤ちゃんは、愛着対象者(主に母親)の存在を意識して探索行動をします。母親の姿が見えなくなると不安になって泣いたり、さがしたりします。
 たとえば、公園で遊ぶ時、赤ちゃんは母親と一緒に遊ぶことを求めたり、母親から離れて遊んでいる時でも母親の存在を意識し、母親の姿が見えれば安心して一人で探索行動をします。しかし、母親の姿が見えなくなると不安になって泣いたり、さがしたりします。
 ところが、愛着が形成されていない赤ちゃんは、母親の存在に関係なく身勝手な行動をしてどこにでも行ってしまいます。たとえば、公園で遊ぶ時も、赤ちゃんは公園内を身勝手に動き回り、母親が誘いかけても一緒に遊ぼうとしません。
 「ダメ・メン」と注意しても他者の指示を受容しません。そのため、母親は赤ちゃんの後を追いかけ常に危険な行動から赤ちゃんを守ってあげなければならなくなり、子守りが大変になります。
 愛着が形成した赤ちゃんは、常に他者の指示を受容して探索行動をするため、ますます親子の「きずな」が深まります。
しかし、愛着が形成されていない赤ちゃんは、他者の指示に関係なく母親から離れて行動するため、ふれあうチャンスや言葉かけが少なくなり、ますます親子の「きずな」が希薄になります。
 したがって、探索行動は愛着が形成しているかどうかを見極める絶好の機会とも言えます。
 もし、愛着形成が不十分な場合は心の問題が生じ始めていることを考慮する必要があります。


〈愛着を形成した赤ちゃん:
  母親を意識して行動する〉

〈愛着が形成されていない場合:
  母親の存在は関係なし・・・〉


【7、探索行動に問題をもつ赤ちゃん】
 探索行動は旺盛な知的好奇心によるものであり、赤ちゃんは探索行動により大人からの言葉かけや体験をとおして身のまわりの世界を学習します。
 ところが、行動がおとなしく、目の前に置かれた数点の玩具などをいじくりまわすだけで満足して、他に興味を広げない赤ちゃんがいます。
 そうした赤ちゃんは大人がいろいろな遊びにのせようとすると、一瞬、興味を示しますが、長続きしません
 たとえば、ボールのころがし合いで、大人が何回かボールをころがしてやると、1〜2回はころがし返しますが、ボールのころがし合いを喜んで行なおうとしません。
 また、玩具遊びにしても次から次へ玩具を箱から取り出して部屋中に散乱させるばかりで、好奇心的な遊びをしようとしません
 こうした赤ちゃんはいろいろなものを興味を持ってながめたり、投げたり、いじりまわしたりすることが少なく、手にとってもすぐにポーンと投げ捨ててしまうか、いつまでも一つの玩具に固執して持ち続け、遊ぶ様子が見られません
 探索行動をしない赤ちゃんは、探索行動によって学習することが乏しくなるため、知的発達に問題が生じてきます
 したがって、赤ちゃんの行動をよく観察して、探索行動の様子に疑問をもったら、大人は赤ちゃんが周囲の人の行動や玩具などの事物に好奇心をもつように関わってあげることが大切です。


〈探索行動が順調に発達しない場合〉


【8、まとめ】
 探索行動は0才代に精神的、身体的ないろいろな面が順調に発達した結果起こる行動です。
 したがって、赤ちゃんの探索行動を観察し、発達が順調かどうか、どこに問題点があるかを考える、いわば0才代の育児を見直す機会としてとらえることが大切です。
 赤ちゃんは積極的に探索して物の名称や物に関して事象をおぼえたり、いろいろな体験をして、自らの力で学習し知恵をつけていきます。
 まさに、探索行動は知恵づきの出発点ということが言えます。

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