【本の要旨 2】
 「ことばの発達は新生児期から始まる  ―ことばの源は呼吸ですー  」の要旨


T、マジックの力

 赤ちゃんは心身共に未熟ですので、人のお世話を受けなければ生きていくことができません。そんな赤ちゃんに幸いなことに人のお世話を引き出す「三種の神器」が備えられています。三種の神器とは、「泣くこと」と「笑うこと」と「おかたり」をすることです。泣きと笑いとおかたりが三種の神器となるのは、それぞれにマジックの力が秘められているからです。三つのマジックについて述べます。

1、泣きのマジック
 赤ちゃんは生まれて数ヵ月間は呼吸器官の機能が未熟であるために、しっかりと呼吸ができません。息苦しくなったり呼吸が浅くなります。すると赤ちゃんは息を大きく吐いてたくさん息を吸うことをして、呼吸のコンディションをととのえます。
 この息を大きく吐く時に「オギャーオギャー」の音声が出ます。
 従って、「オギャーオギャー」の音声は泣き声でなく呼気音です。
 ところが、「オギャーオギャー」の音声を出す時の表情は、子供が「アーンアーン」と泣く時の表情とそっくりであるために、人々は何の疑いもなく赤ちゃんが泣いていると思います。泣いていると思うと可哀そうで放っておけなくなります。
 これが泣きのマジックです。人々は泣きのマジックにかけられると、抱っこしたり、オッパイをのませたり、オムツを変えたりと、なにくれとお世話をするようになります。
 つまり、泣きのマジックは、人々のお世話を引き出すのです。

2、笑いのマジック
 赤ちゃんは生まれて数ヵ月間は呼吸器官の機能が未熟であるために、しばしば呼吸が浅くなります。すると赤ちゃんはいつもよりも多く息を吐いて、その分多く息を吸うことをして呼吸のコンディションをととのえます。
 この多く息を吐く時に口角が左右に引けます。口角が左右に引けると口唇がU字形となります。U字形の口唇は笑い顔をイメージさせます。
 そこで人々はU字形の口唇をみて、笑っていると思います。

 さて、笑っていると思うと、人々は赤ちゃんは楽しいのかな?気分がいいのかな?と気持ちがはずみます。これが笑いのマジックです。笑いのマジックにかけられると、人々は赤ちゃんを楽しませてあげたくて、心地よい触れ合いをしてあげたり、あやしてあげたりします。つまり、笑いのマジックは触れ合いを引き出すのです。

3、おかたりのマジック
 赤ちゃんは抱っこされていたり、ご機嫌がよい時に「アー」「フー」とかわいい音声を発します。このかわいい音声はいつもより多く息を吐く時に出る音声、つまり呼気音ですが、人々は赤ちゃんが何か語っているように思います。
 これがおかたりのマジックです。おかたりのマジックにかけられると、人々は積極的に話しかけてあげたり、赤ちゃんのおかたりに応えて語りかけたりします。
 また、人々はおかたりが聞きたくて、赤ちゃんが心地よいと思うような抱っこや触れ合いなどに励むようになります。
 このようにおかたりのマジックは、触れ合いやことばかけを引き出すのです。
 泣くことと笑うこととおかたりをすることは、本来呼吸の営みから産出した産物ですが、三者にはマジックの力が秘められているために、泣きはお世話を引きおこし、笑いは触れ合いを引きおこし、おかたりは話しかけを引きおこすのです。
 心身共に未熟な赤ちゃんは人の力を借りなければ、生きることも育つこともできません。三種の神器は人の力を借りることができるように備えられた術と言うことができます。しっかりと泣くこととよく笑うこととたくさんおかたりをすることが赤ちゃんの育ちを保証するのです。


U、ことばの源は呼吸です
 赤ちゃんは生来ことばとなる音声が備えられています。それは呼吸の営みから産出するおかたりの音声です。0ヵ月の音声は「アー」「フー」の小さい音声ですが、月日の経過と共に音声は大きくなり、長く出るようになります。
 2ヵ月には「アーフーウー」となり、4ヵ月には「ムニャムニャブーブーウェー」とだんだん長い音声を発するようになります。半年を過ぎるとさまざまな音声を一日中出しつづけるようになります。そしてたくさんおかたり(喃語)をした末に、10ヵ月頃には音声の模倣が始まります。母親が「マーマ」というと真似をして、赤ちゃんが「ンマンミャー」と返してきます。音声模倣はこれまでの意味のない音声(おかたり)を意味のある音声(ことば)へと転換させます。その後赤ちゃんは音声模倣によっていろいろな単語を言うようになります。ところで音声を模倣するためには、人や自分の音声を聞くことができなければなりません。2ヵ月頃に母親の声がする方を見るようになることからわかるように、赤ちゃんは早い内からしっかりと人の音声を聞いています。
 人は赤ちゃんのお世話をしたり、お守りをする時、必ず話しかけます。そこで赤ちゃんは人の音声を聞きながら生活します。やがてたくさんの音声を聞くことによって、人の音声には意味があることに気がつきます。
 赤ちゃんはおかたりしながら自分の音声を聞きます。自分の音声を聞くことができるので、人の音声を模倣することができるのです。このように赤ちゃんはおかたりをすることと、音声を聞くことによって「アー」「フー」の呼気音をことばへと成長させます。
 このことから、ことばの源は呼吸であることが導びき出されます。



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