体操

 乳幼児期は運動発達と知能発達は並行するといわれています。このことは赤ちゃんの運動発達がいかに重要であるかを強調しています。
 ところが、発達に問題をもつ子供は、一見、身体発達は良好に見えても、歩行の際に両手を交互に振って歩行することが難しかったり、母指と示指・中指の対向による「つまみ動作」がうまくできなかったりします。そのため当然できる年齢がきても上手に箸を使うことができなかったり、三輪車のペダルを回すことができなかったりと微細運動と粗大運動の両面において年齢相応の動きができません


〈両手を交互にふって歩く〉

〈お箸が上手に使えない・・・〉

〈手指や肘をしっかり伸ばして
        バンザ〜イ!〉
 遊んでいる行動を見ても身勝手に動き回ったり、じっとしてこだわり的な遊びに固執したりしていて、遊びにあった身体の動きができません。
 また、手は「脳の出店」などと言われるように手指行動の発達は知能や言葉の発達と深い関係があります。実際、発達障害の子供に「バンザイしてごらん」と言ったとき、手指と肘を伸展して両手をしっかり挙上できる子供は一般的に知恵や言葉が良好であることを体験します。
 そのため、磐城学園では粗大運動と微細運動の両面をバランスよく発達させ、かつ基礎的な運動能力を高めるために、巧技台や運動用具を使用した運動や徒手的な体操を指導しています。
 以下、体操の目的や体操を指導する時のポイント、体操の成果について説明します。

【1、体操の目的】
 (1)運動に興味をもたせ、かついろいろな運動の仕方を身に付けること
 (2)運動をすることで巧緻性・機敏性・柔軟性・平衡性などの調整力の発達をはかり、
    よく動ける身体にすること
 (3)運動を通して、最後までやりぬく心を育てること

〈元気いっぱいに体を動かそう〉


【2、指導上のポイント】
 (1)指導者は子供とアイコンタクトをかわしてから運動の仕方を指導します。
 (2)子供が指導者の指示を受容して運動に取り組むように指導します。
 (3)子供が指導者の動作をよく見て身体の動きを模倣するように指導します。
 (4)子供が指導者の言葉をよく聞いて内容を理解して最後までやりとげるようにリードします。
 (5)子供が動作言語を言いながら運動するように指導します。
    例:ボールを投げる場合、指導者は子供と向き合ってアイコンタクトをしてから「ポーン」と言って
      ボールを投げます。子供は指導者の動きを模倣して「ポーン」と言ってボールを投げ返します。

〈先生はアイコンタクトを心がけながら説明をする〉


【3、体操の成果】
(1)身体を動かしてがんばった達成感の体験は、子供にやる気と
   チャレンジする心を持たせます。
(2)体操という同じ体験を友達とすることにより仲間意識が育ち、
   好ましい友達関係が育ちます。
(3)友達と競うことで競争心がめばえ、負けないようにがんばる
   気持ちが育ちます。がんばる気持ちが学習や遊びや生活
   行動において発揮されるようになると、いろいろな面が
   飛躍的に成長します。

〈友達や周囲との関わりあいが大事〉

(4)体操は友達全員が同時に取り組む種目であるため、必然的に集合、整列、待機がともないます。
   そのため、ルールを理解したり、集団行動ができるようになり、がまんする気持ちが育ちます。
(5)体操をするときは、運動用具の準備や片付けがあります。準備や片付けのお手伝いの体験をとおして、
   お手伝いの喜びを覚え、積極的に家庭でもお手伝いをするようになります。


〈負けないようにがんばるぞ!〉

〈友達を見ながら、順番を待とう〉


粗大運動 (全身を使う体操)

 粗大運動とは歩く、走る、とびはねる、平均台をわたるなど全身を使う体操や平衡を保つ体操を言います。特に、できるだけ早期に両手を交互に振って歩けることを目標にしています。
 磐城学園で指導している体操を、全身で使う体操と巧技台を使う体操にわけて、テーマ別に列挙します。

【1、全身を使う体操】
体操のテーマ 体操の内容
這う ・四つ這い  ・腹這いで前進する  ・高這い
歩く ・手をつないで歩く  ・両手を交互に振って歩く  ・後ろ歩き  ・横歩き
・平均台を歩く  ・音楽にあわせて行進する  ・多人数で手をつないで歩く
・電車ごっこで歩く  ・いろいろな形をした線やロープの上を歩く
・友達といろいろな隊形で歩く  ・模倣遊びでいろいろな歩き方をする
・姿勢(脊柱伸展)を正し肘関節、手関節および指を伸展し、両手を交互に振って
 足踏みをする
走る ・両手を交互に振って走る  ・ジグザグ走行をする  ・いろいろな形の線の上を走る
・多人数で手をつないだり友達といろいろな隊形で走る  ・音楽にあわせて走る
・拍手をしながら走る  ・肘関節をやや屈曲して全力で走る
跳ぶ ・両足とび  ・片足とび  ・跳び箱からとびおりる  ・階段の昇降ジャンプ
・2本のロープを使用して立ち幅とびやケンパーをする
・いろいろなものになってとぶ(カエル、うさぎ)  ・つるしてある物へジャンプする
・フープを並べてとびうつる  ・トランポリンでジャンプする
登る ・階段を登る  ・肋木を登る  ・木登り  ・マットの山を這って登る
・ロープを使ってすべり台を登る  ・斜めの平均台を登る  ・アスレチックを登る
押す ・背中を合わせて押し合う  ・おしくらまんじゅう  ・向き合って押し合う
・一輪車、自動車、自転車を押す  ・ダンボールや大きい積み木を押す
お相撲 ・手を組んで押し合う  ・体を密着して押し合う  ・足でふんばって押し合う
渡る 橋(平均台、太鼓橋、うんてい、肋木、ジャングルジム)を渡る
くぐる ・ネットをくぐる  ・フープをくぐる  ・人のトンネルをくぐる  ・肋木をくぐる
・足の下をくぐる  ・巻いたマットをくぐる  ・ドリームトンネルをくぐる
とびこえる ・跳び箱を数個とびこえる  ・ハードルなどいろいろな障害物をとびこえる
・マットをとびこえる  ・フープを数個並べて次々ととびこえる
引く つなひき、ワゴン車を引く、ソリを引く、いろいろな重い物を引っぱる
ける ・ボールをける  ・走りながらボールをける  ・向き合ってボールをけりあう
・目標に向かってボールをける  ・転がっているボールをける  ・缶けり  ・石けり
投げる ボールを投げる、ピンポン玉を投げる、お手玉などいろいろなものを投げる
ゆする ブランコの座りこぎ(立ちこぎ)、ロープブランコをゆする、ハンモック遊び
すべる すべり台をすべる、斜面のマットをすべる、芝スキーですべる

〈両足とび〉
【2、巧技台を使う体操】
体操のテーマ 体操の内容
平均台 ・前方方向で渡る  ・両手水平位で渡る  ・タンブリンを叩きつつ渡る
・後ろ向きで渡る  ・横歩きで渡る
・2本の平均台を四つ這いで渡るおよび2人で手をつないで渡る
・多人数で肩に手を置いて渡る  ・平均台の下をくぐる
・平均台で片足立ちをする
鉄棒 両手でぶら下がる、けんすい、足抜き、逆上がり、コウモリ状にぶら下がる
マット 前方回転をする、横に回転する、2人で手をつないで横に回転する、マットの傾斜を転がる
とび箱 前方回転をする、とびのる、とびおりる
すべり台 すべる、四つ這いで登る、両手水平位で登る、逆さすべり
肋木 ぶらさがる、よじ登る、またいで歩く
太鼓橋 四つ這いで登り降りする


微細運動 (手指を使う体操)

 手を伸ばして物をつかむ、にぎる、ボールを投げる、ころばす、木や石を積むなど、手先を使った細かい運動をいいます。特に、母指と示指の対向動作で器用に物の操作ができることが目標です。

【手指を使う体操】

体操のテーマ 体操の内容
ぶらさがる うんてい、鉄棒、ロープ、肋木、つり輪
転がす ボーリング、ボール、ピンポン玉
打つ ・手でボールを打つ  ・バットやラケットでボールを打つ  ・つるしたボールを打つ
・転がるボールを手やバットで打つ
運ぶ 手のひらやラケットにボールを乗せて運ぶ、両手または片手にボールやいろいろな物(積み木やブロックなど)を持って運ぶ
受ける 投げたり打ったりしたボールを受け止める、紙ヒコーキなど飛んでいる物をキャッチする、転がってくるボールをキャッチする
引っぱる ロープを十文字にからめて4人で引っぱる
回す ロープを片手または両手に持ち頭の上、体の前、体の横で回す(前回し、後ろ回し)
つまむ 積み木や小さいボールをつまんで箱に入れる
投げる ・輪投げ  ・ボーリング  ・紅白の玉入れ
・小さいボールを投げる(両手投げ、片手投げ、上手から、下手から)
・的に向かって投げる  ・ヤリを投げる


その他 (遊具を使う運動)
遊びの内容
・アスレチック遊具やブランコ、ジャングルジム、すべり台などの固定遊具を使った遊び
・水遊び、三輪車、自転車、自動車、トランポリン、ドリームトンネルなどの遊び

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