序章

11、赤ちゃんが育つ道すじと相互作用

 当施設では、赤ちゃんが育つ道すじを重視しているため、障害とか年齢を問わず新生児期の赤ちゃんに戻す取り組みをして、赤ちゃん返りをさせる療育をしています。
 一旦、新生児期の赤ちゃんに戻して、順調に育つ赤ちゃんの道すじをたどって成長をするように援助して、未発達の問題をクリアーさせるように療育をします。
 新生児期の呼吸援助抱っこ及びアイコンタクト抱っこから始めて、1〜2ヵ月の欲求の泣き、3〜4ヵ月の微笑行動、4ヵ月のはしゃぎ遊び、5〜6ヵ月の人見知り、7〜8ヵ月のなん語、8〜9ヵ月の手遊び歌、10〜12ヵ月の指さし行動、1才の探索行動、2才の模倣行動、3才のお手伝い遊び、4才の見立て遊び、5〜6才のごっこ遊びへと育つ道すじをたどって成長するように援助することを療育の要としています。
 順調に育つ赤ちゃんは人との適切な相互作用の積み重ねによって、自然に育つ道すじをたどって成長します。したがって、この相互作用をいかにして自閉傾向の子供の療育に生かすかがキーポイントとなります。
 そこで、順調に育つ赤ちゃんがたどる相互作用を理解することが、自閉傾向の子供の療育についての考察の原点となります。以下、自閉傾向の子供の療育に役立てるために順調に育つ赤ちゃんの場合の相互作用について述べます。

「順調に育つ赤ちゃんの相互作用」
1、産声と呼吸援助抱っこ
 赤ちゃんは胎内から出た時、まず肺呼吸をするお仕事をしなければなりません。
 そのため、最初の肺呼吸が産声となります。その後も赤ちゃんはまだ呼吸がうまくできないので「オギャー、オギャー」と音声を出します。
 すると、「オギャー」の音声を聞いた大人はかわいそうに思ってあわてて抱っこをします。抱っこをされると赤ちゃんは息苦しさが解消して音声(泣き声)を出さなくなります。
 赤ちゃんが息苦しくて「オギャー」と音声(泣き声)を出す。
  →周りの大人が音声(泣き声)を聞くと抱っこをして呼吸を援助する。
   →抱っこされた赤ちゃんは楽に呼吸ができるようになるとホッとする。
    →大人も赤ちゃんが泣き止んでホッとする。
 共にホッとすることは、大人(主に母親)と赤ちゃんとの間に呼吸援助抱っこがもたらす相互作用が起こったからです。すなわち、相互作用は呼吸を援助することから始まります。

2、新生児期のアイコンタクト
 新生児期の赤ちゃんのもう一つの大切なお仕事はアイコンタクトをすることです。赤ちゃんは抱っこされると抱き手の顔を見ます。ところが、見えていた顔が見えなくなったり、抱き方によって見えないと、「オギャー」の音声を出します。
 「オギャー」の音声を聞くと抱き手は「ヨシヨシいい子ね。」などと言ってなぐさめながら抱き方を変えるようになります。そのうちに赤ちゃんは視線が合うポーズになると落ち着きます。
 赤ちゃんは顔が見えなくなると「オギャー」と音声を出す。
  →抱き手が抱っこのポーズを変えて顔が見れる抱っこをする。
   →赤ちゃんは顔が見えると落ち着く。
 ここに抱き手と赤ちゃんとの間にアイコンタクトを通して相互作用が起こります。

3、1〜2ヵ月の欲求の泣き
 赤ちゃんは心身共に未熟で生まれてきているため、自分では何一つできません。しかし、赤ちゃんは泣くと周りの人が世話をしてくれて身体的苦痛(息苦しい、寒い、暑い、明るい、さわがしい等)が取り除かれたり、オッパイが飲みたいなどの生理的欲求が満たされて、心地よく生きていけることを体験します。すると、心地よく生活するために、泣いて相手に意思を伝えるようになります。これが「欲求の泣き」です。
 例えば、「オッパイが欲しい、抱っこをして欲しい、あやして欲しい」等のいろいろな意思を伝える泣きをします。赤ちゃんは伝えようとする意思内容によって泣き声を変えます。
 大人は泣き声を聞き分けて、赤ちゃんの気持ちを判断して対応できるようになります。
 赤ちゃんが意思を伝える泣きをする。
  →大人が意思をくみとってお世話をする。
   →赤ちゃんは意思にかなった対応を受けて泣き止む。
 ここに大人(主に母親)が赤ちゃんの「欲求の泣き」に応えるということで相互作用が起こります。

4、3〜4ヵ月の微笑行動とはしゃぎ反応
 赤ちゃんは人を見ると微笑みかけてきます。大人は天使の微笑みに魅了されて、つい赤ちゃんをあやしたり、抱っこしたり、玩具で遊んであげたりと赤ちゃんが喜ぶことをしてあげたくなります。
 赤ちゃんが触れ合いを求めて微笑する。
  →微笑に応えて大人が触れ合う。
   →赤ちゃんが触れ合いを楽しむ。
 ここに赤ちゃんの微笑がもたらす相互作用が起こります。
 微笑行動によって相互作用が起こると、次にはしゃぎ反応が始まります。
 赤ちゃんはあやされると人との触れ合いがうれしくて手足をバタバタさせ、大きな笑い声を出すなど喜びを全身で表します。これがはしゃぎ反応です。
 大人が赤ちゃんをあやす。
  →赤ちゃんがはしゃぎ反応をする。
   →大人はますますあやしたくなる。
 ここに赤ちゃんのはしゃぎ反応によって相互作用が起こります。

5、5〜6ヵ月頃の人見知り
 人見知りとは、それまで相互作用の強かった人を特別な愛着対象者として選び、その人が大好きになったことを証明する行動です。
 よって、人見知りというよりは、「人見分け」と称した方が赤ちゃんの気持ちに即します。人見知りが始まると、普段の生活で相互作用の少ない人や見知らぬ人が接近してくると、不安になって緊張した表情になったり、泣きべそをかいたり、その人を避けるような行動をします。すなわち、人見知りは関わった人との相互作用の度合いを表す行為といえます。
 人見知りは今までお世話をしてくれた人の中で最も相互作用が多かった人を見分けて愛着対象者とする行動です。
 したがって、人見知りは「人見分け」ができることの証でもあります。
 また、この時期に赤ちゃんが愛着対象者を決めるということは、心のよりどころをつくる行為です。赤ちゃんは心のよりどころができると、いろいろな人とおつきあいをしても不安がなくなり、いろいろな人との対人関係を広げていくことができるようになります。
 赤ちゃんは愛着対象者を決めて触れ合いを求める。
  →愛着の人は求めに応じた触れ合いをする。
   →赤ちゃんは愛着の人の触れ合いを受けとめて安心する。
 ここに相互作用が起こります。人見知りは愛着の人との相互作用であり、最も喜ぶべき行動です。

6、7〜8ヵ月頃のなん語
 赤ちゃん自身が舌や口唇などを動かして、いろいろな音声(なん語)を出します。赤ちゃんは、出した自分の音声を聞いて楽しみます。
 赤ちゃんが発するいろいろな音声を聞いた大人は、赤ちゃんがいろいろな音を出せるようになったことがうれしくて、つい赤ちゃんのなん語をオウム返しします。
 赤ちゃんがなん語を言う。
  →大人が赤ちゃんのなん語をオウム返しする。
   →赤ちゃんが大人のオウム返しを聞く。
 ここに赤ちゃんのなん語を介して相互作用が起こります。

7、9〜10ヵ月の手遊び歌
 手遊び歌の時期になると、赤ちゃんは相互作用の強かった人だけではなく、手遊び歌を向き合ってやってくれる人であれば誰でも喜んで受け入れて、手遊び歌を楽しみます。
 赤ちゃんは人見知り期をすぎると、いろいろな人との触れ合いを求めるようになり、人との手遊び歌が楽しくて、もっとやってほしいと要求するようになります。
 大人が手を開いたり閉じたりする。
  →赤ちゃんがまねをして手を開いたり閉じたりする。
   →赤ちゃんが手を「グーパー」する動作を見て大人がほめる。
    →赤ちゃんが喜んで「グーパー」をくりかえす。
 ここに手遊び歌を介して相互作用が起こります。

8、10〜12ヵ月頃の指さし行動
 手遊び歌では手を開いたり閉じたり(グーパー)の動作でしたが、1才前後になると人さし指だけの曲げ伸ばしができるようになり、人や物を見ると指さし行動をします。
 赤ちゃんが人や物に指さしをすると大人がそれに反応して名称を言ってあげたりします。
 赤ちゃんが指さしをする。
  →大人が指さした物の名称を教える。
   →赤ちゃんが納得してうなづく。
 ここに指さし行動によって相互作用が起こります。

9、子供は相互作用によって成長する
 子供は0才をすぎると、1才代の探索行動、2才代の模倣行動、3才代のごっこ遊びへと成長していきます。子供は成長にともなって家族以外の人とも交流ができるようになっていくため、相互作用の対象者は増えていきます。
 赤ちゃんは人見知り期に受け入れた第一愛着対象者を心のよりどころとして、その後もいろいろな人との相互作用をすることによって成長していきます。
 相互作用という視点から赤ちゃんの成長を考えると、「赤ちゃんのサインを周りの人が受けとめる⇔周りの人のサインを赤ちゃんが受けとめる」という両者の相互作用によって赤ちゃんが成長していくことがわかります。
 したがって、もし赤ちゃんに人との相互作用が起こらないとしたら、身体的発達はできても人と関わって発達する精神的な成長に、「赤ちゃんが育つ本来の道すじをたどって成長していくことの難しさ」が生じることがわかります。
 相互作用の視点から自閉傾向の子供の赤ちゃん時代の成長過程を見ると、新生児期の呼吸援助抱っこやアイコンタクトをはじめ、0才代に限らず1〜3才と月齢が進む中で、人と関わって発達するはずの精神的な成長が順調にできないまま幼児期になっていることを教えられます。
 こう考えると、自閉傾向の子供は新生児期より順調に育つ道すじとは違った方向をたどって成長し、それが2〜3才頃には自閉傾向の特徴として表出してくることがわかります。
 自閉傾向か否かは新生児期に人との相互作用が起こるか否かで発見できるのです。もし、新生児期でわからなくても、3〜4ヵ月頃の微笑行動による「はしゃぎ反応」の時期に、人との相互作用が起こるか否かでわかります。
 したがって、「自閉傾向か否か」は「相互作用がとれるか否か」で、早期にしかも容易に発見できます。

10、相互作用についての母親の話
「A君(5才)の母親の話 (1才児健診をふりかえって)」
 1才児健診の時、保健師さんより、「ニコニコと笑顔が多くて良いですね。身体の発育も普通で心配ないですよ。」と言われ、何の異常もなく成長していることがわかってとてもうれしかったです。でも今になって思うことは、確かに赤ちゃんの頃よく笑っていたけれど、それは一人笑いだった。目が合って笑うとか、あやされて笑うとかいうことではなかった。夜中も目がさめるとヘラヘラ一人で笑い続けていた。今になって当時の笑いは何らかの相互作用があって笑うということではなかったことがよくわかります。

※本来、赤ちゃんは人を見ると微笑みかけてきたり、あやされるとうれしくて笑うものです。笑いは人との相互作用があって出るもので、相互作用がなくて一人で笑うことは問題です。


「B君(4才)の母親の話」
 0才の時はあまり泣かず、上の子に比べると手がかからなくて楽だと思っていました。ところが、1才をすぎると急に動きが激しくなり、親は子供のあとを追いかけまわしてばかりでした。0才代はおとなしい子だったので、1才になって元気で動き回るようになったことがうれしかったです。
 でも今思うと、赤ちゃんは上の子のように手がかかるのが当たり前なのですね。
 子供の名前を呼んでもどんどん走っていってしまうし、遊ぼうと思っても思い通りにならないとひっくり返って怒っていたことなど当時のことを思いかえすと、何の相互作用もできていなかったことがわかってきました。

※0才代にあまり泣かないこと、手がかからないことは、赤ちゃんの時からすでに人との相互作用に問題が生じていたためです。


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