序章

12、相互作用はキャッチボール

 相互作用とは何かについて考える時は、キャッチボールに例えるとわかりやすいです。例えば、母親が「〜ちゃん」と声をかけながら「笑いのボール」を投げた時、子供が「笑いのボール」を受けとめて、ママの顔を見てうれしそうに「微笑みのボール」を投げ返します。
 母親が「笑いのボール」を投げる。
  →子供が「笑いのボール」を受けとる。
   →子供が母親に「微笑みのボール」を投げ返す。
 ここに相互作用が起こります。キャッチボールは投げたボールを受けとめてもらわなければどうにもなりません。
 ところが、自閉傾向の子供は大人が「ボール」を投げても何の反応も示さなかったり、「ボール」から逃げたりしてなかなか「ボール」を受けとめてくれません。
 投げられた「ボール」を子供が受け取るようになるまでには相当の時間をかけて取り組まなければなりません。どんなに「ボール」を投げかけても子供が受け取らなければ相互作用がとれません。したがって、自閉傾向の子供の発達を促すためには大人が根気よく「ボール」を投げ続けます。その「ボール」に子供が関心を示して、「ボール」を受けとめてくれるようになるまで粘り強く取り組むことが求められます。
 すなわち、先に「ボール」を投げる大人の粘り強さによって子供との相互作用が起こりはじめるということを認識して取り組むことが肝要です。

13、当施設の相互作用を重視した取り組み

 当施設では、いずれのカリキュラムにおいても指導者と子供が相互作用をとることを重視した指導を行なっています。
 自閉傾向の子供が最も苦手とすることは、人と相互作用をとることです。
 ・抱っこされても抱っこから逃げる。
 ・目を合わせると視線をそらす。
 ・話しかけても聞こうとしない。
 ・一緒に遊ぼうとすると逃げて自分の好きな遊びに入ってしまう。
 ・手をつなごうとすると手を振り払ってつながない。
 などの様々な場面で相互作用を拒否する行動にでます。
 それゆえに認知学習やリズム遊びや体操や触れ合い遊びなどの指導において、指導者が投げた「ボール」を確実に子供に受けとめさせるようにします。
 「ボール」の受けとめ方は千差万別ですが、子供が「ボール」を受けとめた時、すなわち、指導の指示を受け入れた時は、子供ががんばったのですから、ほめてほめてほめまくります。
 次に手遊び歌「♪むすんでひらいて」の指導の例をあげて、子供が「ボール」をどのように受け取るか、それに対して相互作用を起こす指導とはどんな指導かについて述べます。

「相互作用を起こす指導例」
 手遊び歌「♪むすんでひらいて」の指導における相互作用のある取り組み。
 ※指導者が子供と対面して曲に合わせて手指を動かす場合の指導例。

(1)「♪むすんでひらいて」の曲をかけると、曲を聞くことが嫌で泣く。
(2)「♪むすんでひらいて」の曲に合わせ、指導者が手指を動かしても無関心である。
(3)「♪むすんでひらいて」の曲に合わせて指導者が手指を動かすと、動作を模倣して手指を動かす。
(4)「♪むすんでひらいて」の曲をかけると、手本がなくても教えられたように手指を動かす。
(5)「♪むすんでひらいて」の曲をかけると、曲に合わせて歌いながら手指を動かす。

 上記のように、「♪むすんでひらいて」の「ボール」の受けとめ方は子供によって異なります。
 指導者は必ず、子供の受けとめ具合に応じた指導をします。
 問題は、投げた「ボール」を受け取らない(1)と(2)のケースです。
 具体的に指導の仕方を下記に述べます。

(1)の場合
 曲を何回もかけながら指導者が楽しそうに手遊び歌をして、曲に慣れさせます。
 嫌で泣いても曲を流し続けます。子供は泣いても曲が流されることがわかると、泣き止みます。泣かないで曲が聞けるようになったら、たくさんほめます。
 すなわち、流された曲を聞く、という「ボール」を受け入れたことが相互作用なのです。

(2)の場合
 正面の指導者の手本を見るように、もう一人の指導者が子供を誘導します。すなわち、二人目の指導者が子供の手指を介助して手本と同じように手指を動かします。介助を子供が素直に受け入れたらほめます。さらに介助を全面介助から徐々に部分介助へともっていき、自分で手指を動かすように誘導します。
 受け入れて手指を動かすことが相互作用です。

(3)の場合
 子供が指導者の方を見たり、手本の模倣をして、少しでも手指を動かすことは、投げられた「ボール」を受けとめようとしている行動で、相互作用のある取り組みです。

(4)と(5)の場合
 投げられた「ボール」をしっかり受け取った結果の行動であり、相互作用がとれています。
 したがって、子供が指導者の指示を受け入れて手遊びができることをほめ、さらにレベルアップをする指導をして、子供がその指導を受け入れたら、ほめます。
 このように子供が指導を受け入れようとする時、そこに相互作用が起こります。

 以上、(1)〜(5)のいずれのケースにおいても発達のレベルに関係なく、指導者の指示を受け入れた時、指導者と子供との間に相互作用が起こります。
 したがって、指導者はわずかでも子供が指導を受け入れた時、すなわち「ボール」を受けとめた時はほめてほめてほめまくります。子供のがんばりを認めることが、次の相互作用を引き出します。
 手遊び歌の指導は当施設のカリキュラムの一端ですが、他のカリキュラムの遂行においても、様々な「ボール」を投げて子供に「ボール」を受けとめさせるように指導をしています。
 指導者と子供との相互作用が数多くなり、しかもしっかりとれるほど指導の成果が出ます。

14、親と子の相互作用の関係

 入園当初の親と子の関係を観察すると、親が投げた「ボール」を子供が受け取るという相互作用はほとんどみられません。子供が親の指示を受け入れて行動をするということがなく、子供のペースに親が合わせてお世話をしている生活スタイルができあがっています。
 例えば、おもちゃの片付けの場合、親が「おもちゃを片付けなさい。」と言っても、子供は親の指示を聞き入れないで走り回ったり、自分勝手な行動をしています。親は、「片付けるのよ。」と連発しながらも自分がおもちゃを片付けてしまい、あえて子供に片付けをさせようとしません。
 これでは、「片付けなさい。」の指示の「ボール」を子供は受けとめようにも受けとめれません。
 往々にして親と子の関係はこうした状況で、これが当たり前の生活になっています。
 こうした状況の背景には、「子供がやらないことは親がやればよい。」と思っていたり、「子供が嫌がることを無理にやらせることは酷なことだ。」「子供が楽しいと思う体験をさせてあげることが自閉症の子供には大切だと助言された。」等々と親の複雑な思いがあるからです。
 しかし、当施設の指導者は親の気持ちを察してはいますが、子供の成長を考えると親と子の間に相互作用がある取り組みをしていただかなければなりません。
 しかし、親は子供のパニックに負けそうになるため、常に励ましのアドバイスをして、相互作用が起こるように指導し続けます。


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