序章

17、おもちゃの片付けのお手伝い作業

 家庭での相互作用のあるお手伝い作業は、どのように行なったらよいのでしょうか。毎日くりかえされるおもちゃの片付けを例にあげて具体的に説明します。
 本来、子供は自分が遊んだおもちゃの片付けは自分でするものです。しかし、はじめは一人ではなかなかできないので、作業の手順を教えてあげなければなりません。
 そこで、お手伝い作業としておもちゃの片付けを例にあげて述べます。

「片付けのお手伝い作業」
 子供が存分に遊んだ後なので、部屋中におもちゃが散乱しています。子供はひと遊びをしたので、ジュースを飲もうと冷蔵庫に向かいました。
 以下、ママと子供のやりとりです。

【ママと子供のやりとり】
ママは冷蔵庫を開けさせないように、冷蔵庫の前に立ちふさがりました。
ママは、「ダメよ、おもちゃを片付けたらジュースをあげるよ。」と子供に言いました。
子供は駄々をこねて、ママを叩き冷蔵庫の前からママをどかそうとしました。
ママは、一口飲ませてから片付けても・・・、と一瞬思いましたが、今が勝負と決断しました。
ママは、「片付けたらジュースをあげるよ。さあママと一緒に片付けるの。」と子供に言いました。
ママは子供の手をひいて、おもちゃ(ミニカー)のところへつれていきました。
ママは、「さあ、ミニカーを持ってごらん。」と子供に言いました。
子供はミニカーをひろいあげましたが、すぐに床に投げつけました。
ママは子供の手をひきよせて、投げたミニカーの所へつれていきました。
10 ママは、「ミニカーを投げてはダメ。ミニカーをひろってミニカーケースに入れなさい。」と子供に言いました。
11 子供は今度は、泣いて拒否したり、逃げようとしたりはしないでミニカーを見つめています。
12 ママは子供とアイコンタクトをとって、「〜を片付けなさい。」と言いきりました。
13 子供はママの毅然とした態度に従って、ついにミニカーをケースに片付けました。
14 ママは子供を抱っこしてたくさんほめました。
15 ママは、「お片付けができて偉かったね。お話が聞けておりこうさん。」と言った後、「まだおもちゃが残っているよ。これも片付けなさい。」と指さして片付けをうながしました。
16 子供はママが指さしたおもちゃをひろいあげては箱に入れていきました。
17 ママは子供が一つ一つおもちゃをお片付けするたびに、子供をいっぱいほめました。
18 ママは、「まだいっぱいあるね。ママも一緒に片付けるね。」と言ってお手伝いしました。
19 ママは最後の1個をわざと残しておきました。「〜ちゃん、まだ一つ残っているよ。」と子供に言いました。
20 子供は残りの1個をひろって、どこに片付けようかとママに視線を投げかけました。
21 ママは子供の視線に気づいて、「この箱に片付けるの。」と言って箱を指さしました。
22 子供がきれいに片付いた部屋を見まわしました。
23 ママは子供を抱っこして、「お部屋がきれいになった。よくがんばったね。」といっぱいほめました。その後で、「お片付けができたから、ジュースを飲もうね。」と子供に言いました。
24 子供は冷蔵庫からジュースを取り出して、美味しそうに飲みました。

 上記のようにお手伝い作業が、親と子の間に相互作用となることが大切です。


18、おもちゃの片付けのお手伝い作業(17)の説明

 上記のおもちゃのお片付け作業における母と子供のやりとりの中に、相互作用をとる指導のポイントがいくつかあります。相互作用の視点から、やりとりをふり返って説明します。

「相互作用の視点より説明」
(1)母親はおもちゃの片付けの後にジュースを飲ませるという約束をつらぬきました。
【視点の説明】
 子供に駄々をこねられても、ママは子供の出方にゆらぐことなく、お片付けをさせてからジュースを飲ませました。一度出した指示は、指示を子供に受けとめさせます。子供が指示を受容してやったら、たくさんほめます。ここに相互作用が起こります。

(2)母親は指示を出しましたが、子供ができない内容の指示は出しませんでした。
   子供がわからない時は、片付ける箱を指さしするなどの援助をしました。
【視点の説明】
 相互作用がとれる範囲内の指示を出して、やったらほめることが大切です。

(3)母親はお片付け作業の手本を見せて、子供に負担がかかりすぎると判断した時は、一つ一つ指示をしながら一緒に片付けたり、おもちゃが多いと判断したら手伝いました。
【視点の説明】
 母親は指示を一つにしぼって相互作用をとりやすくしました。

(4)母親は指示する時、アイコンタクトをとって話しました。
【視点の説明】
 アイコンタクトをとって指示を出すと、相互作用がとりやすくなりました。

(5)母親は指示しておもちゃを片付けさせながら、子供が指示を受け入れるたびにほめました。
【視点の説明】
 子供はほめられることで、次の相互作用をとることを受け入れました。

(6)母親は途中で片付けを手伝いましたが、最後の1個を子供に片付けさせることで、自分がやりとげたという意識を子供自身にもたせるようにしました。
【視点の説明】
 最後の1個まで片付けさせる努力をしたことによって、最後は自分がやりとげたという達成感を子供にもたせるようにしました。ここに相互作用が起こります。


19、家庭での学習

 当施設では、家庭で相互作用をとる機会としてお手伝い作業を奨励していますが、それに加えて、当施設で作成した認知学習やリズム遊びなどの指導に取り組んでいただきます。
 当施設では、家庭でのお手伝い作業が認知学習と関連していることを親に理解していただけるように常に説明しています。このことにつき、次に例をあげて述べます。

「事例:3個と5個という数の認知学習とお手伝い」
【施設における認知学習の指導場面】
 (1)指導者が○を3個かいて、「○がいくつありますか?」と子供にたずねます。
    子供は○を指さしつつ、「イチ、ニイ、サン」と数えた後で、「3あります。」と言います。
 (2)指導者がミカンを5個置いて、「いくつありますか?」と子供にたずねます。
    子供はミカンを「イチ、ニイ、サン、ヨン、ゴ」と数えた後で、「5あります。」と言います。
【家庭におけるお手伝い作業の場面】
・指導(1)の場合
 「台所からコップを3個持ってきてください。」と指示した時、子供がコップを3個持ってきたら、認知学習の「○が3個」という数とお手伝い作業の「コップ3個」とがつながって理解できたことになります。これがお手伝いで体得した「生きた学習」です。
・指導(2)の場合
 「ミカン箱からミカンを5個持ってきてください。」の指示をした時、子供がミカンを5個持ってきたら、認知学習のミカン5個とお手伝いの5個がつながって理解できたことになります。
 上記のように、認知学習で学んだことがお手伝い作業で実際に役立つものとなり、ここで認知学習が家庭での生活とつながったことになり、「生きた学習」と言えます。

 指導中、多くの親が、どうして何回も教えているのに我が子はわからないのだろうとため息をつかれたり、悩まれたりします。そんな時、当施設の指導者は、「お母さん、我が子に教えることで子供と向き合うことができたのです。結果は後になりますが、子供もがんばったのですから、たくさんほめて終わりにしてくださいね。」と助言しています。


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